
AIの進化についていけない――5chのAI板に立ったスレッド「なんかもう世の中の流れについていけない」が、まだ動き続けています[5]。前回の記事では、OpenAIがAIに「テスト中だと気づかせない」新しい試験手法を開発した話を取り上げました[5]。今回はスレッドから別の流れです。「置いていかれる側」の実感を裏づける調査と、家庭や学校をめぐる新しい動きが、続々と見つかりました。
まず職場です。米国マネジメント協会(AMA)の調査は、タイトルからして率直です。「組織はAI導入を進めているが、多くの従業員は置いていかれたと感じている」[7]。PwCの調査資料も似た指摘です。AIに詳しい一部の従業員だけが頼られ、大多数が置き去りになると、企業はいちばん大事な人材を失うリスクを抱えるという内容です[5]。なお、これらの資料には、素材から確認できる具体的な数値は見つかりませんでした。その点は正直に書いておきます。
一方で、空気が違う調査もあります。調査会社Verasightの結果では、「AIに置いていかれたと感じていない」人は半数近くに上ります。同じ時代に生きていても、ついていけている人とそうでない人に分かれつつあるようです。PwCが指摘する「詳しい人だけが頼られる職場」は、この感覚の差がそのまま形になったものと言えそうです。
家庭と学校の側でも動きがあります。OpenAIは13〜17歳向けの安全機能「ChatGPT for Teens」を発表しました。AI企業が描いてきた未来は、パーソナルアシスタントや健康コーチ、家庭教師、友達までAIがこなす世界です。しかし人間とAIの関係が個人的になりすぎて、依存したり恋愛感情を抱いたりする問題が起きています。そこで未成年には、心の支えではなく教育的なツールとして使ってもらう方針です[2]。
国立情報学研究所の越前功教授へのインタビューは、もっと深刻です。性的なディープフェイク(実在の人の顔や体をAIで合成した画像・動画)が中高生を対象に広がり、卒業アルバムの写真が悪用されるケースがあると指摘しています。氏名まで載ったアルバム写真が拡散され、フェイクと分かっても本人のダメージは計り知れないといいます[1]。芸能人の合成画像がフリーマーケットサイトで売られている例や、顔を合成したビデオ通話を使う特殊詐欺の話も出てきました[1]。教授は生成AIをナイフに例えます。料理に欠かせない一方、使い方を間違えれば人を傷つける。SNSの言説をXのGrokなどAIに聞いて確かめる状況も、AIの性質が理解されていなければ危ういといいます[1]。上半身の写真1枚と指示文だけで、人物が缶ビールを飲み干す自然な動画が作れる実演例も挙げられました。商用ツールには公序良俗に反する映像を作れない設計がありますが、オープンソースのモデルにはその制限がないものもあるといいます[1]。
ここで、スレッドの別の投稿が効いてきます。ゲーム「龍が如く」シリーズの話です。最初に発表された「1」の登場人物の顔は、作者が空想してデフォルメした「人工の顔」でした。ところが後の作品では、実在の俳優をモデルにした写実的な顔になっています。投稿者は「写実的な顔を、モデルなしで想像して描くのは難しい」と書きました[4]。そのうえでAIに質問したところ、実在しない人間をモデルにせず、架空でありながら写実的な顔画像を作れると回答されたといいます[4]。ゲーム制作でさえ実物に頼っていた領域を、AIは越えつつあるわけです。この能力の裏返しが、先のディープフェイクや詐欺の顔合成です。総務省の情報通信白書も、偏ったデータによるバイアスや、内部が見えないブラックボックス性を生成AIの課題として整理しています[3]。
「流れについていけない」というひとことの中身を分解すると、三つに分けられます。職場での取り残され感、子どもをめぐる新しいリスク、そして技術が越えていく速度です。企業は人材の格差を、OpenAIや研究所は安全策を、それぞれ形にし始めました。半数近くが「ついていけている」と答える調査がある以上、流れそのものは止まらないのでしょう。問われるのは、置いていかれた側に足場を作る側の速度のようです。









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