
AIエージェントが、自分の設計図を毎日書き換え続ける——。オープンソースの「Hermes」をめぐって、そんな少し不思議な光景が現実になっています。前回の記事では、Hermesが音声のやり取りを通じてローカルのAIエージェントにつながる様子を追いました。今回はその後の展開として、注目が集まる「中身」に踏み込みます。テーマは内部構造と、自己改善の仕組みです。
HermesはNousResearchが開発するAIエージェントです。公式のアーキテクチャ文書によると、入り口は多彩です。CLI、ゲートウェイ、ACPアダプタ、バッチランナー、APIサーバー、Pythonライブラリが用意されています[1]。CLIでの対話セッションから、サーバー経由の利用まで、幅広い使い方を想定した設計です。ひとつのエージェントにここまで多くの入り口があるのは、やや珍しい構成のようです。中心にあるのはAIAgentと呼ばれる核で、プロンプトの構築、プロバイダの解決、ツールの実行の三つの役割に分かれています[1]。長いやり取りでも推論を続けられるよう、文脈を圧縮してキャッシュする仕組みも組み込まれています[1]。そして目を引くのがツールレジストリです。70以上のツールと28のツールセットが登録されています[1]。呼び出すAPIの形式も3種類あり、用途に応じて切り替えられるようです[1]。
人気のほうも数字で確認できます。2026年4月時点のレビュー記事では、GitHubのスター数が95.6Kに達したと紹介されています[4]。自己学習するエージェントとして取り上げるレビューも他にあり[4]、内部構造を解説するDeepWikiのページも用意されるなど[4]、資料が複数の角度から整備されています。「自己学習」「自己改善」という言葉が、複数のレビュー記事のタイトルに繰り返し現れているのも特徴です[4][4]。さらに動作範囲が広い点も押さえておきたいところです。CLIだけでなく、TelegramやDiscord、Slackなど複数のプラットフォームを横断して動きます[2]。
いちばん興味深いのは、コミュニティから生まれた「生きたアーキテクチャ文書」の存在です。開発者zoro-jiro-san氏のリポジトリは、自律的な調査と反復を通じて毎日更新される設計文書で、Hermes Second Brainというナレッジ管理システムと統合されています[2]。Second Brainは、生の調査資料を構造化された検索可能なウィキへ編集する、AIネイティブな知識基盤です[2]。Andrej Karpathy氏の提唱するLLM Wikiパターンの実装と説明されており[2]、Hermesの知識を外に置いて複利で増やす役割を担います[2]。同じリポジトリでは、Raspberry Piの状態をTelegramへ通知するテレメトリボットも紹介されており[2]、エージェントを取り巻く環境ごと整備しようとする姿勢がうかがえます。
流れは「日々の学び→スキル→グラフ→ウィキ」と段階的です。まず新しい論文や記事、リポジトリが読み込まれます。次にパターンが抽出され、SKILL.mdというスキルファイルが自動生成されます。シンボリックリンク経由でHermes本体に組み込まれる仕組みです[2]。並行して、登場する概念を抽出した知識グラフが作られ、「uses」「implements」「inspired_by」といった関係で結ばれていきます[2]。検索は、単語の重要度を数値化するTF-IDFベクトルとグラフ検索を組み合わせたGraphRAG方式です[2]。正確で文脈に合った応答を狙った構成のようです。ウィキの各ページは、引用とウィキリンク付きでLLMが作成・更新します[2]。ファイルはMarkdown形式で、Obsidianで開けばグラフ表示も可能です。編集はファイル変更を検知するinotifyウォッチャー経由で、GitHubへリアルタイム同期されます[2]。さらに、問い合わせへの回答をそのまま保存して知識を増やす循環や、主張すべてを元資料にたどれる証拠管理の考え方も盛り込まれています[2]。
しかし、話をそのまま受け取るのは危険のようです。「ClaudeやChatGPTに勝るか」という挑発的なタイトルのレビュー記事も登場していますが[3]、素材となった記事からは具体的なベンチマーク数値を確認できませんでした。性能比較は、まだ断片的な段階と思われます。また、毎日更新される設計文書は公式のものではなく、個人開発者によるハッカー的な試みである点も見逃せません[2]。文書自身が「LLMがウィキを維持し、人間はソースの選別だけ」と説明する通り[2]、自動生成された知識の質は、もとになる資料の選び方に左右されるはずです。さらに検索では、自律エージェントを題材にした同名の学術論文も見つかりましたが[4]、これが今回のHermesと同一かどうかは素材からは確認できませんでした。
それでも、この一連の動きが示す方向ははっきりしています。エージェントの進化が、推論モデルそのものの性能から、ツールの数や知識の蓄積方法といった「周辺の仕組み」へと広がっていることです。人間がメンテナンスせず、LLMが文書を書き続ける構図は、今後のエージェント開発のひとつの形になるかもしれません。前回の音声接続に続いて、今回の自己文書化。Hermesは「使われるだけのAI」から「自分を育てるAI」へ、また一歩進んだようです。





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